5弦ベース(LowB)の必要性について考える

最近、Twitterを始めとして5弦ベースの必要・不要について議論されている光景を見ることがありました。

必要と主張する人は「迫力が出る」「音域がほしい」などメリットを挙げており、対する不要と主張する人は「Eより下は必要なのか?」「音程感出るの?そもそも可聴域なの?」と言った、デメリットよりも存在自体が不要なのではないかと言う声が多いです。

そこで、今回は様々な角度から5弦ベース(LowB)の必要・不要について、改めて考えてみることにしようと思います。

目次

5弦ベース(LowB)の歴史:どうして生まれた?

5弦ベース(LowB)の誕生には、アメリカの偉大なベーシスト「アンソニー・ジャクソン」が大きく関わっています。

彼は、1970年代に「コントラバスのように音域が拡張できるベースがほしい」とオーダーを出しました。これが元で、彼モデルのベースは「コントラバス・ベース」と呼称されています。

そのコントラバスは、クラシックでも使われるほど歴史のある楽器です。通常4弦と思われているこのコントラバスですが、実は5弦のものも存在しており、この音域が現在で言う「5弦ベース」と同様のものとなります

コントラバス(アップライトベース、ウッドベースとも)

実は5弦のコントラバスについてはクラシックでもちょこちょこ登場しています。有名な作曲家ではL.V.ベートーヴェンの曲に5弦を指定しているものがあり、他のクラシックの作曲家でも同様の音域=LowBやLowCを要求しているものがあります。

こうした背景から、5弦ベースのLowBという存在は最近始まったものでは無いことがわかります。また、1970年代くらいからシンセサイザーの発達により、より低い音域での演奏が行えるようになったため、これに対応するためにエレキベースも同じく発展したという背景もあるようです。

音の響きはどうなのか

音の響きと一言で言っても捉え方は多種多様なので、ここでは議論によく挙がっていた「可聴域」「音程感」の2つを考えたいと思います。

可聴域なのか?

「5弦ベースのLowBが可聴域ではない」と主張する人がチラホラ見られました。

人間の可聴域は、一般的には20~20,000Hzと言われています。この数字が大きい程高音となり、年をとる程に聞こえにくくなっていきます。逆に低音は加齢に伴って変わることが少ないようなので、耳の遠い高齢者に話しかけるときは大声で話すのではなく、極力低くゆっくり話すと伝わりやすいそうですよ。

話を戻します。

可聴域とは、人間の耳に聞こえる・人間が音として認識できる周波数帯のことを指します。そして、5弦ベースのLowBより1音低いピアノのLowA(A0)は約27Hz。つまり、ピアノの一番低い音が音として聞こえている時点で、既にLowB(30Hz)は可聴であることが結論となります。

音程感

次に音程感はどうなのかという問題です。実はこれは非常に難しい問題です。

先程、ピアノのLowAの話を出しましたが、ピアノでもここまで低いと実際問題AなのかA#なのかの区別は確かにつきづらいところです。しかし、音の高低は聞き分けることができます。これは、音に含まれている倍音が作用しているためです。

倍音とは、実際に鳴らした音と同時に鳴っている音のことを言います。倍音に対して、実際に鳴らした音のことを「基音」と言い、基音に対して1オクターブ上やそれ以上の上の音が倍音として同時に鳴っていることになります(倍音は基音の周波数から見て倍の周波数=オクターブ上になります)。

音程感を感じにくいはずのLowBですが、LowBの開放を鳴らしながら1オクターブ上のA#など異なる音を鳴らしてみると違和感が出てきます。同様に、ギターがAmコードを鳴らしている時にLowBの開放を鳴らすと気持ち悪い感じになります。つまり、音程感を認識するための指標が感じにくいだけで、倍音や他の楽器など指標があるとしっかりと理解することができることがわかります

LowBを活かす方法を考える

以上をまとめると、LowBは聞こえはするが、音程がつかみにくいという特徴があることになります。これを克服することができれば、音域が広がることで表現できる幅も広がる可能性を秘めています。

なので、否定派の皆様、どうか存在くらいは認めてもらえないでしょうか…?笑

ただ使うだけでも工夫が必要とわかったLowBですが、ではどういう工夫ができるかを考えていきます。

コードやメロディーの支えになる

前述の通り、「音程感がつかみにくいのは指標となる音がないから」という理由があるのであれば、アンサンブルの中で指標となる音を見つければ良いということになります。あるいは、自分のが動くことで指標となる音の印象を変えることが出来ます。

例えば、コード楽器の演奏でBm=「シ・レ・ファ」となっているところでルートを外している場合、「レ・ファ」「レ・ファ・シ」等が上モノ楽器で鳴っている場合ですね。ここに、LowBを足すことでBmへと確実にコード感が決定づけられます。Bmで「シ・レ・ファ」とすべての音が鳴っていたとしても、よりコード感を安定させるためにも機能します。

また、Dメジャーが鳴っているところでLowBを入れるとBm7となり、緊張感のある響きに変化します。これはベースの音域ではよくある使い方ですが、音域的に他の楽器よりも低いことでコードよりも低い位置で入り込めるので、音程感が薄いと言ってもより低い音域だからこその影響力があるやり方だと思います。

他にも、コード楽器が鳴っている音域とかぶってしまうと音が埋もれてしまう=抜けなくなってしまうので、どうしても鳴りがイマイチな時に低い音域に移る方法もアリですね。テンションコードなど響きが難しいもの等、ルートと和音で距離をとることで響きを変える工夫もできるので、アレンジの面でも幅が広がります

つまりは、曲の構成を見ての工夫を仕掛けるというやり方です。

基音の周波数帯にEQをかけてカットする

LowBの周波数帯はキーボードはもちろん、一番はバスドラムとかぶりやすいです。

低域の音量が多くなりすぎると音程感のつかみにくい領域の音があふれてしまうことになり、低音が回ってしまう・飽和してしまう状況が発生します。これにより、返ってベースの音が聞こえなくなります

これを回避するために、あえてEQでLowを削る方法をとります。これはMixなどでもよく使われる方法で、各楽器が明確に聞こえやすい帯域を残してスリムにすることで、総合的に聞き手に聞こえやすい音を届けるという考え方です(ローカット)。その上で、倍音部分を持ち上げると音が聞こえやすくなります

LowBは30Hz、E弦開放が41Hzなので、40Hz以下を削り気味に設定。同時に、倍音を考えて60~80Hz(1オクターブ)、120~160Hz(2オクターブ)くらいを音を聞きながら上げていきます。これにより、ベース単体でも大分聞きやすい音ができると思います。 あとは、プリアンプなどで調整していくと自分好みの音にたどり着きやすいのではないかと。

それと、弾き方を工夫するのも手ですね。スラップをすると2k~4kHzと高い帯域にも影響が出るので、練習の際にそこも意識するのも大事だと考えています。

まぁ実際にはLowBよりもLowDの方が使われることが多いと思いますが、その場合でも広域をカバーできるグラフィックイコライザーを足元に置いて調整するという方法は、スタジオやアンプに合わせて即座に対応できる良い方法なので、おすすめです。

一番大事なのは“聞き手がどう聞こえるか”

様々な角度でLowBについて考えてみましたが、結局は「ものは使いよう」という結論です。クラシックの時代から利用されている音域で、エレキベースで弾くにしても「コード感」「EQ」などの工夫次第で可能性を見出すことができるのであれば、「弾きたい人は弾けばいい」というシンプルな終着点にたどり着くことになりますね。

ただ、一番忘れてはいけないのは「聞き手にとってそれは良いことなのだろうか」ということ。

5弦ベーシストの「このズーンと来る低音が良いんだよ!」という意見が、聞き手にとって「ベースがうるさくて、他の楽器が聞こえない」という状況であれば、それはアンサンブルを壊す存在というだけです。これは5弦に限らず4弦でもあり得ることで、実は私の兄が過去にいたバンドがまさにそうでした(バンド内の力関係からメンバーは何も言えず…)。

私自身が5弦ベースを愛用していますが、以上の考えから「メンバーでも5弦を使っていることが気付かない音の運びが大事 」というポリシーを掲げています。アンサンブルを崩さずに弾けるようにすることで、5弦ベースを弾くことに引け目がなくなり、むしろ運指も多様になったことで、演奏の際の可能性が広がってより楽しくなりました。なので、今では5弦ベースばかり弾いていますよ!

<余談>
88鍵盤あるピアノですが、その原型となる「チェンバロ(ハープシコード)」は61鍵盤と音域が狭いです。 また、最近では100鍵盤と超えている「インペリアル」というピアノもあります。インペリアルはピアノ内の反響を良くすることを目的に作られていますが、88鍵盤になった理由は、モーツァルト辺りの時代で「もっと低い音域と高い音域がほしいんだけど!!マジで!」という声に応え続けたためだと言います。人間という生き物は、音域を広げるという性に生まれついているものなのでしょう…グラッツェ!!


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この記事を書いた人

コメント

コメント一覧 (4件)

  • ここまで5弦ベースをロジカルに理解している方は初めてお見かけしました。とても有意義な内容で素晴らしかったです!

    • とても嬉しいコメントを下さり、ありがとうございます(^^)

      かつて「好きなアーティストが5弦ベースだから」という理由で、私も5弦ベースを手にしたものでしたが、どうやっても音が埋もれることに悩みました。
      せっかく手にした楽器を弾ききれないのは演奏者として悔しいし、楽器自身も色んな所で音を鳴らしてあげたい!
      そんな思いから、様々な角度から勉強し、こうしたロジックにまで組み立てられたことで、その沼から脱出することが出来ました。その経験が誰かに喜んでもらえるようなものであると嬉しいなと思い、今回長くはなってしまいましたが凝縮して書いてみました。

      なので、まさゆき様より頂けた言葉は本当に嬉しかったです!!

  • 4弦ベースにBEADの5~2弦を張って楽しんでいます。ジャンクベースの改造なので、ピックアップも5弦の音を十分に拾っているとは言えませんが、5フレットのところが、4弦と同じになるので、そこを基本ポジションと想定して、弾くと「4弦」プラス「より低い音」となるので、自由度が高くなるのが楽しいです。勿論、1、2弦の12フレットの音は出せませんし、5フレットポジションだと、高いフレットであることのコンプレッションがかかって、4弦ベース解放弦の豊かな低音は出ませんが。こんなんどうでしょう?

    • コメントありがとうございます。
      また、返信が遅くなり、失礼致しました。

      4弦ベースにBEADの弦…良いですね!
      私はナット部分がB弦で削れてしまうことが怖くてできませんでしたが、存外にG弦を使うことが少なかったので、それもとても魅力的なセットアップだと思っています。
      G弦は工夫で何とかなることが多いですが、B弦はB弦じゃないと解決できない訳ですし…^^;

      開放弦については、仰るとおり、4弦ベースには4弦ベースに最適化されたパーツ選定が載っていることが大きな影響と思われます。
      色々ベースを分解してわかったのですが、メーカーから市販されているベースは、ハンダや線材等、ベースに合わせたセットアップがなされていました。
      メインで使用している5弦ベースを、試しに線材だけ交換してみたのですが、音の広がりが明らかに変わりました(特にMOGAMIが良かったです)。
      もちろんピックアップの影響も大きいと思いますが、キャビティ内のちょっとした調整だけでも、低音の鳴りが改善しました。
      好きにいじれるのであれば、そのあたりを改造してみても面白いと思います。

      今度このあたりの話を記事にしようかと思います^^

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